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リーン・スタートアップの課題仮説検証フェイズで悩んだら・・・

私の経験から、リーンスタートアップの課題仮説検証フェイズにおいての、エスノグラフィーの重要性についてご紹介します。

藤澤 専之介

藤澤 専之介

ビジネスプロデューサーとしてHRtech領域の新規事業開発を行っています。リーン・スタートアップ手法を実践しながら奮闘中。

はじめに

リーンスタートアップ手法でサービス立ち上げをする際、リーンキャンバスを書くところまではスラスラいくが、最初に検証を行う『課題仮説の検証』でつまづいた経験はないだろうか。

今回は自分自身のサービス立ち上げ初期に行う『課題仮説の検証』にてつまづいた経験から、より課題仮説がうまくいくようなエッセンスを提供したいと考えている。

起業や新規事業開発をされている方はリーンスタートアップ関連の書籍を読んでいると思うが、私も新規事業を立ち上げる際エリック・リースのリーンスタートアップや、スティーブンGブランクのアントレプレナーの教科書、アッシュ・マウリャのRunning Leanを読み、強く影響を受けた。

これらの本の事業開発手法を参考に私は、すでに事業プランはあったがそのプランをリーン・キャンバスに書き出し、まずは「自分が設定した顧客が本当にその課題を抱えているのか」を検証するため、課題仮説の検証を行うことにした。

課題仮説インタビュー

エリック・リースの本には、課題仮説インタビューという手法が紹介されており、私もその手法を真似してインタビューシートを作り、顧客(その時はリボンモデル(マッチング)の事業でユーザーは小売店など)に聞いて回ってみることにした。
 
インタビューを、まずは10人ほどに実施してみて気づいたことは、当初自分が立てていた課題仮説が、思っているほどユーザーのインサイトを捉えてない・・・ということだった。

「ありがとうエリック!このままサービス開発してたら、誰にも使われないゾンビサービスを作ってしまうところだった!(ホッ)」
 
仮説検証の重要性をインタビューしながら感じたものの、ここで困ったことが出てきた。

次の課題仮説が立てられない

当初の課題仮説が反証されたことはポジティブに捉えたものの、10人の課題仮説を通じて出てきた小売店の困っていることというのがとても表層的というか、インサイトに感じられないものばかりで、「これだ!」という次の仮説を立てられずに迷ってしまったのだ。その後もインタビューを続けるものの小売店の店長たちの口から出てくる困っていることは、ペイン(痛みの)ポイントではあるものの、サービスに対してお金を払ってまでして解決したいほどのペインではないと感じられることが多く、次の課題仮説が決まらず立ち止まってしまったのだ。

そんな時、新規事業開発経験豊富なアドバイザーから、『エスノグラフィー』をやってみたらどうか?と提案をいただいたので藁にもすがる思いで試してみることにした。

エスノグラフィー

エスノグラフィーとは文化人類学や社会学、心理学で使われる研究手法の1つで、端的に言うと対象の行動を観察することである。

以前聞いた話でエスノグラフィーの有効性を象徴する話がある。

殺虫剤の営業をしているセールスマンが、ある日殺虫剤の販売データを見ていると、あるドラッグストアで定期的に1度に10本の殺虫剤を買っている人がいるということがわかった。

「どうして10本もいっぺんに買うのだろう?」

と気になったセールスマンは、そのドラッグストアの前でじーっと殺虫剤を10本買う人が現れないか眺めていた。何日か眺めていると、ついに1度に10本殺虫剤を買っているおじいさんが出てきたそうである。

それを見つけたセールスマンは、

「殺虫剤を実際に使っているところを見せてください!!」

と頼みこんで家までついていき、実際にゴキブリに殺虫剤を振りかけるところを見せてもらったそうである。

殺虫剤は神経系・呼吸を阻害する薬が含まれており、これがゴキブリに少しかかっただけで体が痺れて殺すことができるため、通常は少しふりかけるだけで十分効果がある。

しかしおじいさんは殺虫剤をどう使っていたかというと、殺虫剤をふりかけもがき苦しむゴキブリの動きがピタリと止まるまでの長いあいだ、ずーと殺虫剤をふりかけていたのだった。

セールスマンからすればさっとふりかければ死ぬとわかっていただけに、この使い方から衝撃を受けたとともに、おじいさんにとっては「ゴキブリが死ぬ」ことが重要なのではなく、「ゴキブリの動きを止める」ことが重要なのだというインサイトを発見したのである。

こうして見つけたインサイトから生まれた商品が、最近はドラッグストアで当たり前のように売られている『凍らせるタイプの殺虫剤』である。ゴキブリにさっとふきかけ凍らせることで動きを止めることができる。このインサイトを捉えた商品はたちまち大ヒットとなった。

この凍らせるタイプの殺虫剤の例を考えると、ユーザーにインタビューを重ねるだけでは見えなかったであろうインサイトを、エスノグラフィーを活用することで捉えることができる可能性がある。

実際私も、このセールスマンに習い、小売店の店長さんにお願いをして1日中バックヤードから店内を観察させてもらった。店長と店員との何気ない会話や、お客さんがいないときの店員の動きなどを見ているとこれまでのインタビューでは発見できなかった非効率なポイントや、困っていそうなポイントが見えてきたのである。

「百聞は一見にしかず」というが、課題仮説インタビューを10人にするよりも、1日中小売店で店長や店員を眺めていたほうが発見が多いなとその時強く感じた。こうしたエスノグラフィーで見えてきたポイントを課題仮説に設定することで、課題仮説インタビューを大きく前進させることができた。

まとめ

この事例を通じて伝えたかったことは、リーン・スタートアップの初期に行う課題仮説インタビューは初期の仮説の反証を得るということでは有効であるが、インサイトを捉えた課題仮説を立案するためにはインタビューだけでは弱く、エスノグラフィーなど顧客に近づき観察することが重要であるということである。

 リーン・スタートアップは「無駄なく効率的にサービスを作る」手法であるが、1日中ユーザーにはりつき観察することは一見無駄に思えても決して無駄にはならない。課題仮説検証フェイズで悩んだらぜひともエスノグラフィーを試してみてほしい。

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